2.アンテナショップの課題と現状分析

2-1.課題背景

昨今、少子高齢化、人口減少、担い手不足、空き家、耕作放棄地など様々な地域課題が挙げられる中で、地方地域では、交流人口並びに関係人口、定住人口の増加を目標に様々な施策を打っているケースが多々見られる。その施策の1つとして地域の情報、魅力を発信する地域プロモーションが挙げられる。具体的な事例として、都市部での移住フェアへの出展、観光物産展への出展、アンテナショップの運営、各種テーマに沿ったイベント及びツアーの実施など地域内外、官民問わず様々な施策が行われている。本論文では、都市部における地域プロモーションとして、アンテナに着目する。そして、アンテナショップの経営や地域プロモーションの効果の最大化を図るためにどのような施策を打つべきかを検討し、提言するものとする。

まず、地域プロモーションとは、地域のイメージ向上、ブランディングを目的に地域の宣伝、広報、営業活動などの発信を指すものであり、全国の自治体で「ゆるキャラ」や「B級グルメ」などといった横並びの活動を展開しているのが現状である。地域内外を問わない活動を展開する中で、地域外に向けたオンライン、オフラインでの地域プロモーションは地域外のリソースを取り込む際に重要なものとなっており、本論文で焦点をあてる、地方地域のアンテナショップはその一つの最たる例である。しかし、実際には様々な課題が挙げられてり、費用対効果はもとより、アンテナショップを通じた地域プロモーションの意義については追求すべきポイントがあると考えられる。

アンテナショップの課題に関して、東洋経済オンラインにてまちづくり事業家の木下斉氏(以下、木下氏)は「実は大赤字?自治体「アンテナショップ」」にて以下の課題を列挙している、一つ目は、運営上の赤字に関する内容である。現在、東京都内にあるアンテナショップの多くは銀座、有楽町、日本橋などの一頭地に位置し、いうまでもなく莫大な固定費がかかっており、平均的な30坪の店を出す場合、最良の立地であると、450万円/月、5400万円/年間がかかっており、飲食店などを併設している二階建てのアンテナショップではさらに多額の費用がかかっていることは明確である。では、実際に売り上げを見ていくと、売上高7億円を超えている自治体は北海道、沖縄、広島のみであり、残りの多数は1億円以上7億円未満、その他の自治体では1億円未満のケースも見られる。実店舗を運営するにあたり、地代家賃・人件費・光熱費・仕入れ費・その他雑費を含めても、アンテナショップの客単価を算出する必要はあるが、商品が数百円から数千円の中でどのくらい集客を行いどのくらいの客単価になれば黒字化するのかは未知数である。そういった中で収支に合わない事業を行う必要性や収支を合わせて、持続的な経営を行うための提言など、地域プロモーションの意義を再定義し、経営面、事業面の角度から持続的か効果的な事業展開に関して検討していくものとする。

 

2-2.アンテナショップの開設目的と課題

アンテナショップの開設目的として、自治体アンテナショップ実態調査報告(2020)によると、「地域の特産品のP R」、「自治体のP R」が最も多いという報告が挙げられており、次いで、「地域情報発信」、「特産品の販路拡大」、「市場調査・消費者ニーズ」などが挙げられている。その全てが、開設目的として正しいということができるだろう。

上記にある目的を果たすために多くのアンテナショップでは特産品の販売をメインの機能として持たせており、消費者、ターゲットとの接点作りという部分では非常に有効なものであると考えられる。しかし、地域産品の商品の選定問題としてOEMのお土産物なども挙げられるが、経営的な観点から見るとそれ以前に単価の低い産品の販売のみで、アンテナショップの多くが神田、日本橋、銀座、新橋といった一等地に位置することを考えると収支が合わないことは明確である。それでもなお、必要な投資であるということはどのようなコンテンツを持って言い切れるのだろうか。今一度、適切な投資がされているのかは疑問視されるべきであると考える。

愛媛県におけるアンテナショップであるせとうち旬彩館は愛媛県と香川県の共同のアンテナショップであり、当時唯一の自治体折半型のアンテナショップとして注目されている。加藤(2012)では、「2009年度の売上高は5億360万円。これは前年比5 .7 %増で、売上高は6年連続 で伸びている。また、年間入館者数も前年比9 .6 %増の54万5800人に上り,2階に設けられている観光情報コー ナーの利用件数も6585件と,前年より10.7%増え ている。売上,入館者ともに着実に伸びていることから,固定客,リピーターが増えていると推測される」とされており続いて、「2県の共同店舗であることから,運営にかかる経費や年間家賃は2県で折半する形をとっている。2008年実績で店舗全体の年間家賃は5300万円,収 入を差し引いた実質的な運営経費2300万円を,香川県と愛媛県が折半している」と述べられており、数字的に見た場合、他県と比較すると折半という方式により単独で運営する他県の収支バランスから見ると支出を大幅に抑えているということがわかる。

しかし、地代家賃が一県あたり1ヶ月220万円と考えた際に、地代家賃をカットしていく方向性、年間コストが他県と比較した際に低いという点からは売上を伸ばし、助成金だよりにならずに黒字化させていくことを模索することも考えるべきであると考える。では、公設民営のアンテナショップの課題を洗い出しながら、税金投与の必要性を問いつつ、民設民営の事例を取り上げ比較していくものとする。

 

2-3.アンテナショップの機能と課題

アンテナショップの機能として、今井(2005)では、「基本的な機能としては、地域の観光P Rの機能と特産品の販売機能が挙げられ、その他の機能としてU J Iターンの斡旋、外食設備(レストラン)、都市事務所(都道府県事務所)、ビジネスサポート機能などを併設する施設もある。」と示されている。開設目的に対して適切な機能を持ち合わせていることは十分に理解できるものの、そのそれぞれの達成度や、その開設目的を達成することにおいて適切な額の投資、または投資回収がなされているのかは各地方自治体において結果はバラバラであるということが伺える。

機能として挙げられるものに対して、その精査が今日までに行われてきたかどうかを1990年以降の急激なアンテナショップ設置を経て30年余りの今、改めて検討すべきフェーズに入っていると考えられる。その要因としては、新型コロナウイルスの流行に伴い、業種を問わない店舗というものの存在意義の再確認、設置目的の大きな比率を占める観光領域への影響、自治体の予算の見直しなど目的、機能、収支に関しては今一度見直すいいタイミングであることは明確である。しかしながら、撤退や縮小といった安易な方向性だけではなく、コロナによって様々な事業者が影響を受けている今だからこそ、方向性の転換や更なるテコ入れのための投資は十分に考えられるべきものであると考える。

自治体アンテナショップ実態調査報告(2020)では、「自治体アンテナショップは緊急事態宣言下でほとんどの店舗が休止し、運営に深刻な影響があった。2020年3月月次売上の前年度比では、回答した店舗のうち49店舗が減少となり、そのうち11店舗が50%以上の大幅減となった。ウィズコロナの取組が積極的に進められており、感染対策、通信販売、テイクアウト、デリバリー、オンラインP Rなどが行われている。また、各店舗では社会貢献にも取り組んでおり、「Tern table」(徳島/渋谷)では、帰省できず東京にとどまる県出身の大学生に対する食事の招待、近隣の子どもたちへのお弁当の無料支給を実施したほか、「木島平村アンテナショップ「新鮮屋」」(長野県木島平村/調布市)では、調布市内にある大学の寮生に木島平産のコメ2kgをプレゼントした。」とされており、このコロナ禍での店舗経営の数字的な厳しさを示すと同時に、ウィズコロナ時代への形態のシフトチェンジへの取り組みがなされているほか、社会活動が見られたことが報告されている。

自治体の予算の中で赤字の中でも存在意義が認められ維持されてきた拠点も、店舗として採算があまりにも合わない状況に陥ると一等地での莫大な固定費に関しては指摘されるべきポイントであり、一方で、この状況下だからこそ必要な新たな機能に関しては議論されるべきことであると考える。

各アンテナショップの自治体の期待への対応として、今井(2005)では、「自治体の機体への対応とする調査の項目に対して多くのアンテナショップで対応できていることがわかった。しかし、「販売情報のフィードバック」、「観光に対する都市生活者の意識の汲み上げ」の達成度はそれぞれ、86.4%、80.0%となっており、自治体からの期待度が高い割には、中には達成できていない施設も存在することが読み取れられる」とされている。自治体が設定する目的、機能に関しては採算はさておき、達成をしているという部分では、どの指標を用いて評価され、その評価と採算のバランスはどのあたりが均衡値となるのかを明確とする必要性が感じられる。アンテナショップというものが発信地であるということはイメージされやすいが、情報の集積地であり、そのデータを地方地域に対してフィードバックし、更なる発展を目指していく姿勢が強く求められていると考えられる。

 

2-4.アンテナショップの主体と課題

今井(2005)では、運営主体に着目したアンテナショップの運営方法において、運営の核となる主体を以下のような区分に整理している。

 

主体の大区分 主体の小区分
非営利組織
NPO法人
第三セクター 公益法人
営利組織 商法法人
民間企業 地元
地元以外

今井(2005)より著者作成

 

従来のアンテナショップの運営の主体としては非営利、営利、その間の第三セクターなど主体は様々であり、そして、いかなる運営主体であったとしても、アンテナショップに関わるステイクホルダーは各種様々である。愛媛県のアンテナショップにおいては、香川県との共同出店といった形のため、一般的な一県のアンテナショップと比較した際にもステイクホルダーの数は単純計算で二倍であることがうかがえる。営利と非営利の組織の協働のケースも多々見られるため、事業方針やプロセス、意思決定などにコストがかかっていることが考えられる。常設・非常設とで分散させ、プロジェクト・事業ベースでの協働は行うにしても、一事業に関係するステイクホルダーを整理、圧縮することにより、目的に対する効果の最大化を図れると仮説を立てる。

 

2-5.事例

公設公営、公設民営のパターンが一般的なアンテナショップであるが、公設民営においても、基本的には第三セクターや、非営利の法人が運営に入っているケースが多く、ビジネスライクな実例の数は多くはない。しかし、徳島県では大手コンビニエンスストアのローソンとのコラボレーションにより、支出の低コストを実現している。加藤(2012)にて、「徳島県は、全国初のコンビニエンス内アンテナショップ「なっ!とくしま」を、2009年3月ローソン虎ノ門巴町店内にオープンさせた。ローソンは「東京には地方出身者が多い。地方産品のニーズはあるはず」という新浪社長の発案で、社内に地方自治体チームを発足させ事業化に着手していたところ、都の再開発により県事務所と併設するアンテナショップの移転を迫られていた徳島県の飯泉知事との間でトップ会談が行われ、会談から半年で全国初の「コンビニエンスストア内アンテナショップ」が誕生した。ローソン側の徹底した品目選定、販売管理のもと、店内一角に設けられたスペースや冷蔵庫棚では、現在約90品目の県産品が販売されている。ローソン側によれば、アンテナショップ導入前に比べ、客単価や客数は1割増加し、3000円以上の焼酎が品切れになることもあるという。」「コンビニ型アンテナショップについては、店舗の立地条件や利用者層から見た場合、観光振興にはつながりにくいのではないかとの懸念もあるが、自治体にとっては運営経費が販売委託費のみというコストの低さが大きなメリットになっている。ちなみにローソン虎ノ門巴町店「なっ!とくしま」の場合、県の家賃負担はなく、委託費などの支出は20008年度は450万円にとどまっており、他店との比較において格段に低コストである。」という実例がある。

また、このモデルをきっかけに、2012年5月末現在では、日本各地の中枢都市において、徳島県の他に、埼玉県、長野県、千葉県、沖縄県、熊本県、函館市などがこのスタイルを導入しているという。ローソンという間違いのない店舗ビジネスのノウハウを持った企業と共同で行うことにより、地域産品の販売推進、プロモーションという面では非常に有効活、コストパフォーマンスを実現しているということがわかる。しかし、自治体職員が常設であるいわゆるアンテナショップとは異なるため、開設目的に多い、観光の推進などの可能性は低くなっているが、現在の社会情勢を見た際に、常設としては、このような物販販売に特化した先進企業とのコラボレーションにより伸ばしていき、観光やUI Jターンの推進などに対しては、非常設の催事ごとでの対応といった開設目的を常設、非常設とのハイブリッドで実現させることも現実味を増してきているのではないだろうか

また、莫大な固定費問題のアンテナショップに関して、もう一つイレギュラーではあるが面白い実例が福井県においてある。福井県のアンテナショップ「ふくい南青山291」において、加藤(2012)では、「入居する商業施設の家賃は年間1億100万円と高額だが、その商業施設の土地が福井県の県有地であることから、家賃は地代収入とほぼ相殺される」という。非常に稀なケースであり、各自治体で真似ができるモデルでは決してないが、店舗ビジネスと不動産という非常に密接な関係の場所には、まだまだ新たな可能性が考えられるのは事実である。

 

2-6.アンテナショップの経営的課題

アンテナショップにおける経営的課題を検討する際、常設の店舗経営であるという部分を主軸に検討していく必要性がある。店舗事業では、初期費用及び地代家賃が非常に大きく、毎月のランニングコストもかかることから回収にも一定の期間を要する特徴がある。

アンテナショップでは、営利を第一の目的に設立されることはなく、自治体のPRや地域産品の販売拠点、販路拡大のサポートといった公費を投じて維持させる傾向がみられる。しかし、一般の営利目的の店舗事業と同様に検討し、運営費をしっかりと店舗内で循環させることは、現在の立地とコストを考えると必要不可欠であると考えられる。

現在のアンテナショップにおける事業的な大きな課題としてあげられるのは2点である。1つは、多額なランニングコストがかかっており、それを各自治体の税金で賄っていること。2つ目は、多額のコストがかかっているのにも関わらず、目的、機能、主体が適切な設定、体制になっていないことである。

まず、多額なランニングコストがかかっている点では、ランニングコストのみならず、開店時のイニシャルコストもかかっていることを抑えておく必要性がる。アンテナショップが多く位置する、日本橋・有楽町・銀座界隈にてテナント物件を借りた際毎月の家賃のみならず、店舗賃貸契約費用(権利金、敷金、礼金、補償金、仲介手数料など)もかかってくる。この店舗賃貸契約費用では、法人契約扱いとなるため、一年弱分の家賃額が請求されるケースがほとんどである。また、さらにそのテナントの改修、開業に向けた費用として、店舗改装費、設備購入費、商品仕入れ費、広告宣伝費がかかってくる。これら全てを下記の表のように見積もった場合、概算で 円ほどのイニシャルコストがかかることがわかる。

 

店舗賃貸契約費用
店舗改装費
設備購入費
商品仕入れ費
広告宣伝費

アンテナショップ開業時のイニシャルコスト概算(著者作成)

 

これらの費用を投じて開業したアンテナショップが開業以来赤字経営を続けていることは健全な事業経営ができていると評価することはできないと考えられる。また、事業経営において初期費用の回収を行うことは必須であり、利益を出して再投資、事業拡大を行うことは重要である。一般的な店舗事業の初期費用の改修は通常 年程度とされており、その回収はほとんどの自治体で現状行えていないのが事実である。

2つ目の多額なランニングコストがかかっているのにも関わらず、目的、機能、主体が適切な設定、体制になっていないという点である。アンテナショップは一等地に存在し、初期費用の他に、毎月の地代家賃、人件費、水光熱費、仕入れ費、広告宣伝費などの費用が嵩むことが伺える。現状の収支バランスは地代家賃と営業日数とスタッフの数を見た際の概算の人件費を合わせるだけでも明らかな赤字経営であることが考えられる。

事業というものは本来、事業主体が持っているリソースである、人、物、金を基本軸に活用しながら行うものである。しかし、アンテナショップの事業主体である行政においてアンテナショップの運営ノウハウを持つ人は存在せず、物も事業主体の商品ではなく、金は住民の税金といった特徴を持っている。そうした背景から、目的設定においては「地域産品のPR」、「自治体のPR」といった行政が掲げる重要な目的に設定はできているものの、機能面、主体の体制においては十分な整備ができている自治体は数少ないのが事実である。

そうした、大きな2つの課題から見た際にも、収入を増やす施策よりも、固定費を削減し、目的を再確認し、機能、主体を整え行政における支出を減らすことが重要であると考える。また、その際に多様なステイクホルダーに目的、機能、主体を分散させ、効率的な目的の達成と、持続可能な体制を整えることが求められていると考えられる。

 

2-7.三つのアップデート

本論文では三つのアップデートを検討し、分散型の実現可能性を模索するものとする。

1つ目は開設目的のアップデート。開設目的はコロナ禍で大きく問われるものとなっている。コロナ禍での移動制限や自粛、休業要請によるショップ機能の縮小などの状況下において開設目的の再定義は行われるべきものであると考える。本来、対外的な発信拠点としてのアンテナショップにおいて、コロナ禍のみならず今後の考えられるあらゆるリスクを想定した際に、本来アンテナショップがどんな意味をもち、目的を設定し、運営されるべきかを検討する。ここでは、東日本大震災の際における東北各県のアンテナショップの状況や変化を事例に検討するものとする。

2つ目は機能のアップデート。アンテナショップの機能として大きく各県共通して挙げられるのは地域産品の販売機能と案内機能である。観光案内や移住案内などは行政主導の施設であるため、行政の施策や方針に基づき適切な対応がなされていると考えられるが、地域産品の販売に関しては、主体のセクターが行政もしくは社団法人となっており、実行主体が民間であることから、民間が所有するノウハウがうまく生かされていないと考えられる。実際には、地域産品の販売の目的としては、各地域のマーケットを拡張するために都市部への進出、消費者のフィードバック(以下、F B)を得るためということを考えると、公設のアンテナショップに一同に集結しているのもおかしな話である。民設のショップや、各商品との相性のいいセレクトショップなどで販売、プロモーションを行った方が、その目的に対する効果は向上すると仮定できる。

3つ目は主体のアップデートである。目的をアップデートすれば、機能も必然的にアップデートされ、その主体のスキル向上やノウハウの獲得も求められる。現在の主体の成長性も求められる部分もあるだろうが、本論文での主体のアップデートでは、主体の適材適所を検討し、目的・機能・主体のアップデートのための分散型の形態を検討するものとする。